調剤薬局業界は、ジェネリック医薬品の普及や医薬分業の推進の流れを受け、これまで拡大を続けてきました。国内の薬局の数も増え続け、2022年末には6万2,375ヵ所に上っています(厚生労働省の調査より)。その10年前の2012年度の調査では5万5,797ヵ所でしたから、10年間で6,500ヵ所以上も増加した計算です。
しかし、ここに来て業界を取り巻く環境にも変化が見え、「もはや頭打ち状態」との指摘まで出始めました。実際、厳しい経営を強いられている薬局も少なくありません。以下にその現状と背景を探ってみます。
調剤薬局が抱える経営上の課題
調剤薬局の経営が厳しくなった原因の一つとして、調剤報酬の改定にともなう大幅な利益減少が指摘できます。調剤報酬は2年に1回改定されますが、2018年と2022年には一部の薬局を対象に調剤基本料の引き下げが実施されました。さらに2022年度にはジェネリック医薬品の使用割合の基準が引き上げられましたが、この改定も薬局の収益力低下につながっています。
調剤報酬の厳格化の背景には、国の医療費削減政策がありますが、そのしわ寄せが薬局経営におよんだ形です。
また、慢性的な薬剤師不足も、経営上の懸念材料となっています。有資格者の数は増加傾向にあるものの、調剤薬局の人手不足を補うほどではありません。
これまで個人経営の店が多かったこの業界に、調剤薬局大手やドラッグストアなどの企業が出店攻勢をかけてきた点も見落とせないでしょう。薬局薬剤師志望の新卒者が、これら大手調剤薬局や調剤併設型のドラッグストアに大量に採用されたからです。多くの中小の調剤薬局では、収益力低下に加え、人手不足にも苦しんでいます。
薬剤師の地域偏在も顕著です。大都市圏では薬学部のある大学も多く、薬剤師も確保しやすいのですが、近くに薬学を履修できる大学のない地域では、それも難しいのが現実です。
経営者が取るべき対策とは?
このように国の医療費削減が進むなか、調剤薬局が収益を確保する方法として、以下の対策が考えられます。
- (おもな収益源となる)処方箋を今まで以上に多く集める
- 営業活動の積極的な展開(Web広告への掲載、医療機関等へのリーフレット設置、地域イベントでの相談会など)
- 細かな加算まで漏れなく確実に算定する
- 人件費などの経費の見直し
また人手不足の対応策には、次の方法があるでしょう。
- スタッフの待遇改善
- ICTツールの導入による業務効率化
なお、厚生労働省では、2025年を目途に全国の薬局を「かかりつけ薬局」として機能させることを目標に掲げています。その指針を示した「患者のための薬局ビジョン」では、薬局に対し、服薬情報の一元管理、地域に根ざしたサービスの構築、それに対人業務の強化などを求めました。
従来の調剤薬局では、処方箋の受け取りや調剤といった「対物業務」を主要な業務としていました。これを服薬指導など、患者とのコミュニケーションを重視する「対人業務」へシフトさせることで、よりきめ細かなサポートを地域住民に提供しようという訳です。
機械導入による業務効率化でスタッフに時間が生じれば、その時間を患者のサポートに割り当てることができます。対人業務の充実という意味でも、ICTツールの活用は有益な手段になり得るでしょう。
まとめ
厚生労働省の指針にもあるように、これからの調剤薬局には、地域に密着した経営が期待されています。この時代の変化や要請に応えられない薬局は、取り残されていくでしょう。
個人経営の調剤薬局にとって、近年の大手企業からの出店攻勢は脅威かもしれません。しかし国が求める地域密着型の経営を構築する際は、各地にチェーン店を展開する大手企業よりも、地域に基盤を持つ個人経営や中小の調剤薬局のほうがスムーズに対応しやすい側面があります。 規模の小さな薬局にとっては、人材や資金面で制約があるのは事実ですが、かかりつけ薬局として地域の健康作りをきめ細かくサポートしていく努力が大切です。地域住民から選ばれる薬局になれば、経営を軌道に乗せられるでしょう。